2012.01.01up

ノンフィルターの想いをつなぐ

原田 達也(ECRU.オーナー)

text&photo Taiyo Furukawa

 

天神の昭和通りを抜けて親富孝通りに行く途中、ビジネスホテルの真向かいにガラス張りのスタンディングバーがある。バーの前の道は背の高い建物があるせいか光が少なく、日が傾くと途端に暗くなる。クラブや飲み屋が多数存在し、若者の遊び場といえばココ―親富孝に通じる道とあって夕暮れになるとぽつぽつ人は歩けども、人通りが多い道とはお世辞にも言えないところだ。だが、このスタンディングバーは女性客が多く、友人と数名で飲んでいる姿もあれば、一人で楽しげに飲んでいる人もいる。女性が一人で来ても楽しめるスタンディングバーとは、どういうところなのか。「ECRU.」の店長である原田達也氏にお店のオープンまでの経緯やお店に対する想いを伺った。

 

――そもそも「ECRU.」って店名はどんな意味なんですか?

 

「ECRU.」っていうのはフランス語で「生成」「自然のまま」という意味。この店名に決めたのは、DJ・橋本徹さんからインスパイヤしたんですが、彼のコンピレーションアルバムを通じて好きになったJAZZ、ボサノヴァ、ネオアコなどが自分のやりたい店とマッチすると思ってアルバムのタイトルにもある“ECRU"から名付けたんです。意味を調べたらたまたまバーのコンセプトに当てはまったので丁度良かったですね。

 

――ということは「自然」をテーマにしているんですね。

 

そう。このお店ではワインとコーヒーのみを提供しています。ワインは世界各地の造り手さんが想いを込めたワインを、コーヒーはカップ・オブ・エクセレンス入賞豆のスペシャルティーコーヒーを取り扱ってますが、無農薬・無化学肥料で造られたワインやコーヒーなんで品質状態の管理は相当大変!だけど毎日味わいを変えていくワインやコーヒーと向き合うのは僕自身の楽しみでもあるんです。

10名程入るスペース。誰かがコーヒーをオーダーすると挽きたての豆の香りが空間に広がり、途端に皆の表情が和らぐ
10名程入るスペース。誰かがコーヒーをオーダーすると挽きたての豆の香りが空間に広がり、途端に皆の表情が和らぐ

 

ECRU.の特徴でもあるが、それぞれ別のお客として来ていても、時間が経つと自然とひとつの輪になってお客同士で語らう場面をよく見かける。その理由は、オーダーが入る度にコーヒー香で満たされる店内、壁一面には季節ごとに変わる新鋭のアーティストの作品展示、また原田氏のワインやコーヒーの説明・・・と、5感を共有できる要素が随所に盛り込まれているからだろう。

 

自然派ワインの中でもECRU.ではビオディナミワインを多数揃えている。ビオディナミワインは“地球にも大地にもブドウにも人にも優しい造り方”という定義で、造り手が月の満ち欠けに基づいてブドウ栽培から瓶詰めまで行う。そのため、造り手の個性や考え方によって色・味・香がはっきりと違うため、それぞれに造り手のストーリーがあるのが面白い。また、自然派というとすっきりした味わいを想像しがちだが、十分に飲み応えのある味わいのものも少なくない。だが化学肥料や酸化防止剤といったケミカルなもの入ってないため、次の日にお酒か身体に残りにくいのも特徴である。

 

――ワイン×コーヒー×自然×スタンディング。ここに行き着くまでどんな流れがあったんですか?

 

元々自分は美容師を目指してて、そのときに勤めていたサロンのオーナーと単車に乗って二見が浦に行ったんですよ。で、当時はド田舎の山奥で民家もないところにぽつんと一軒バーがあって、扉を開けたらレゲエが爆音で流れていて満席。そのお店が単純にかっこよくって、人と音楽とお酒と美味しいものがそろったお店を自分で作りたくなった。それで飲食業界に入ろうって決めたんです。今では結構有名になっちゃったけど、「サンセット」は当時知る人ぞ知るような穴場だったんですよね。

 

「サンセット」に入るまでには色んなバーで修行しましたよ。一流を学びたくて天神西通りにあった「ヒースクラブ」では先輩にびしびし鍛えられました。それから数軒違うバーで働いて、24歳の頃に大名の人気店「ネジデパ」に入りました。「ネジデパ」は本当のお酒好きが集まるようなバーだったので、一人でお店を切り盛りしていくうちに、お客さんとお酒との接し方を確立させたかな。それで満を持して念願の「サンセット」で働くようになったわけ。

 

「サンセット」に居た6年間は、自然と音楽と人と海に囲まれた毎日を過ごしてました。営業時間外にはサーフィンをしたりと、仕事もプライベートもとても充実してました。で、そこで一緒に働いてた料理長から「ストレスだらけで育った鶏肉を食べるよりノンストレスで育った鶏肉を取り入れた方が病気にならない身体になりやすい」って話を聞いて、自然と口に入れるものを意識するようになっていきましたね。でもそのころはまだ自然派をそこまで意識していた訳じゃなく、何となく足を向け始めた、という感じ。


で、そのときに「ネジデパ」の頃からのお客様である美容師の先輩が「自然派ワイン飲めば?」って言ってくれたのがハマったきっかけかな。凄くアンテナが高い人だったので心に響いたんですよね。自分が美味しいと思ったのがオーガニックだったというのもあるけれど、この一言は大きかったです。

 

そうして自然派を意識するようになって独立を考えた時に、当たり前に毎日飲むコーヒーが美味しかったらいいな、福岡でワインをスタンディングで飲めるお店があればいいな、という想いから「コーヒーとワインはECRU.で間違いない」と言われる位、福岡で定着させていきたいという気持ちでこのお店を立ち上げた訳です。

――日々、楽しむものを上質に、気軽に楽しんでほしいという想いに行き着いた訳ですね。
自然派、特にビオディナミワインがスタンディングで飲めるってとても珍しいことだと感じますが、それだけ難しいことを何故やろうと思ったんですか?

 

声を大にして良いと言い切れるものしか売りたくない、からでしょうね。
「the worth from the Land.」というのがお店のコンセプトですが、その土地、土壌の価値、地球からの価値を伝えたい。間違いない品質のコーヒーとワインの価値を伝えていきたいって一念があるからですね。

 

ビオディナミワインというのは、一般的な造り手さんもそうなのですが、想いがより一層強いと思うんですよ。自分が信じた栽培方法で育ててるから、実は日本とか遠い国に出荷できなくてもいいって思ってる。温度や湿度も違うし、俺が作った味そのままで届けられる訳ないだろうと。でも、その造り手のワインに感動したインポーターがいて、温度管理や振動のない状態での輸入手段を取り、コストや時間をかけて意地でも完璧な状態で異国の地へと運び出す。そんな想いで輸入しているからインポーターもこの価値が分かる酒屋を選ぶ。またその酒屋も同様、この想いをつなげる飲食店を選ぶんです。その良い循環にほれ込んだ人はなかなか抜けられないと思いますよ。俺はそれを飲み手の人にも伝えていきたいんです。それぞれの土壌で産まれた個性豊かな味わいを飲み手の人に楽しんでいただきながら。自然の価値を感じてほしいですね。

 

ビオディナミワインは毎日状態が変わるため少量テイスティングしながらお薦めを決めている。またコーヒーは12時オープンまでにエスプレッソのベストショットのグラム、挽き具合を調整しながら納得がいくまでテイスティングする。原田氏一人でワインとコーヒーと真正面から向き合う姿勢の根底には、彼の手にたどり着くまでの色んな人の熱い気持ちが入っているからなのだろう。話はまだまだ続いていく。

ビオディナミワインは土壌ありき、人ありき。造り手の想いありき。造り手は農民、つまりは重労働なんです。ましてや無農薬なんて大変なんです!そこまでして造るワインの美味しさをお客様にも楽しんでいただきたいんですと語る原田氏。
ビオディナミワインは土壌ありき、人ありき。造り手の想いありき。造り手は農民、つまりは重労働なんです。ましてや無農薬なんて大変なんです!そこまでして造るワインの美味しさをお客様にも楽しんでいただきたいんですと語る原田氏。

 

俺は普段、暇なときは自分が必要とされてないんじゃないか?って考えるタイプなんですよ。だから、感度の高い人たちに自分が必要とされるためには、自分も日々成長していかなきゃいけないと思ってるんですよね。自分の行動が全て関わる人に現れると思ってるから。だから日々勉強だなって強く感じてます。そういう意味でも妥協はしたくない。俺一人じゃ何もできなかったと思うんですよね。本当に周りに支えられてると感謝してる。だから、一人ひとり一杯一杯。大事に大切に。想いのあるものを思いをもって伝えたい。
そのためには自分が低いところに居たら駄目で、中途半端にならないよう自問自答を繰り返してます。

 

――なぜ福岡で、またこの場所でECRU.をやろうと思ったんですか?

 
小学校からずっと地元だったからですね。中学・高校もこの辺を歩いてたし、大人になって親富孝が全盛期のときも遊んでいた。一番安心だし分かる土地っていうのが居心地が良かった。薬院での開店も考えたんだけど、路面店で探して予算も場所もぴったりだったのが、この場所だったので即決した感じ。独立を考えたのもこの物件を見つけてからでした。

 

――オープンして一年半経ちますが、今後はどうなっていきたいですか

 
そうですね、今後は「自然派ワインとスペシャルティコーヒーをもっと日常の一部に」をスローガンに色々とECRU.が展開していけたらいいと思ってます。当たり前に入りやすいお店が当たり前に最高な品質を置いてるってすごく素敵なことでしょう?そういう風にしていきたいですね。ただ一個人だと中々信用されないのが壁でもありますね。

 

――色んな人に囲まれてますが、息抜きも必要ですよね。普段お休みの時は何をされてるんですか?

 
先輩と後輩のお店に行きますね。息抜きも勉強もできる場だし。でも音楽かな。お店で十分。音楽をかけていれば十分。

 

――福岡でお気に入りの場所は?

 
大濠公園。小さい頃から行ってたけど、なんかいい。
何しに行くわけでもないけど、ゆっくり景色を眺めてる。水の流れを見ながら、じいちゃんがいて子供がいて、走っている人もいて・・・そういう景色を楽しんでますね。

 

 

「自然」と聞くとどうしてもケミカルなイメージが伴うが、裏を返してみると実は熱い熱い想いでびっしり詰まっている。ワインは作品で造り手はアーティスト。そしてその気持ちを伝える人たちもノンフィルターで飲み手に届けるから、彼のお店では自然とお客さんが輪になりそれぞれに抱える熱い夢や想いを吐き出すのだ。大枠で言うと原田氏はスタンディングバーのマスターではあるが、一杯に託された想いを伝える伝導師なのである。


自分の行動が集まっている人達に現れる。そう語る原田氏が会計の度に両手を合わてお金をいただいている姿勢は見ている自分もすっと背筋が伸びる。本物を気軽に楽しみたい、いつかは本物を扱いたい。そう思う方はまずECRU.へ足を運んでみてはいかがだろうか。そのヒントが3坪のスペースに詰まっている。

■Profile

原田 達也
1976年11月3日生まれ 福岡県福岡市出身、在住
2010年6月、自然派ワインとスペシャリティーコーヒーの美味しさを日常的に楽しんでもらいたいと天神3丁目にスタンディングバー「ECRU.」をオープン。原田氏厳選のワインをお手軽価格で楽しめる。また「満月会」を毎月開催。満月の日に香りが一番開くと言われるビオディナミワインをスペシャル価格で楽しめる。


ECRU.(エクリュ)
営業時間:12:00~24:00 
MENU:Coffee 300yen~、Wine 550yen~、Bottle 3000yen~
ホームページ:http://ecru-tenjin.com/
Facebook:http://www.facebook.com/#!/pages/ECRU/129571207090484

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