2012.4.14 UP

アーティストが育つ街、福岡に

本田 雄一

text&photo Taiyo Furukawa

暴露してしまおう。この取材をお願いした当初は、彼が今後運営していくアートコミュニティ「FUCA」の話だけを聞くつもりだった。しかし話を伺っていくうちに、彼のストレートな物事の考え方や、臆さず行動する姿勢に飲みこまれ、結果的には2時間のロングインタビューとなり、彼の経営ビジョンまで聞き及んでしまったのだ。
奇しくも、インタビュー当日は彼が企業してちょうど丸4年。本田氏は4年前、不動産と建築とITを融合させた「福岡R不動産」をオープンし、現在では月30万PVを超えるサイトを作りだした。そして2012年4月15日、この場所から福岡の方向性が見えてくるのではないかと期待させてくれる「FUCA」が本格始動する。20代の経営者として今後、どういう街づくりを提唱していきたいのか。
本田雄一が考える福岡の未来像にそっと触れてみた。

 

――「FUCA」の概要を教えてください。

 

FUCA(フーカ)とは、「Fukuoka Urban Community of Art」の略語で福岡から世界的に活躍するアーティストやクリエイターを生み出すことを目的に設立された自治コミュニティです。また、この場所で『孵化する』というダブルミーニングを持たせています。アーティストの創作活動の場であり、表現の舞台であり、地域内外とのコミュニケーションの場として成り立っていくよう、ここを借りるアーティストを始め、有志の方々にも協力を仰ぎつつ運営していく予定です。

総面積は115坪。2階建ての1階は一般の方でも利用できるよう、カフェやイベントスペース、音楽スタジオを設置。2階はシェアアトリエスペースとなっており、4人のアーティストの入居が決定している。また、国内外で活躍するアートユニット「exonemo」の事務所も併設。
総面積は115坪。2階建ての1階は一般の方でも利用できるよう、カフェやイベントスペース、音楽スタジオを設置。2階はシェアアトリエスペースとなっており、4人のアーティストの入居が決定している。また、国内外で活躍するアートユニット「exonemo」の事務所も併設。
居抜き物件のため、アーティストを始め、広告代理店の方々など異業種の有志が集まって改修作業に取り組んでいる。
居抜き物件のため、アーティストを始め、広告代理店の方々など異業種の有志が集まって改修作業に取り組んでいる。

――この場所は当初どんな所だったんですか?FUCAはどういう経緯で 立ち上がったのでしょうか?

 

ここは、アパレル会社の倉庫だったんです。それが賃貸で出ていたのを、その時自分が滞在していたポートランドで知って。すかさず担当者に…実はこの物件は自社サイト「福岡R不動産」で知ったんですが、Skypeで「この物件は俺が借ります」と連絡を入れました。不動産は1秒の差で物件が決まる世界なので、絶対に逃したくなかった。そこから不動産会社ディプラスと設計事務所マツダグミの2社に声をかけ、新会社FUCA LLPを設立し現在に至ります。2012年3月3日にサイトを公開して、それから11日後には立ち上げ会議と称し、60名の人達とFUCAをどうしていくか話し合いをしました。そしてその3日後には2階スペースの解体作業、その2週間後には廃材を使った木製雑貨のワークショップなどイベントを開催し認知拡大につなげました。このスピード感は自分で振り返っても気持良いものがありますね。

本田氏の運営するサイト「福岡R不動産」に情報がアップして30日後、3社共同で「FUCA LLP」を立ち上げる。
本田氏の運営するサイト「福岡R不動産」に情報がアップして30日後、3社共同で「FUCA LLP」を立ち上げる。
会社設立をtwitterでも発表。
会社設立をtwitterでも発表。

「必ず物事を逆算して考える。」そう言い切る彼は、24歳で起業し、29歳までに上場企業を作ると、学生時代から決めていた。そのため、大学卒業後は起業家輩出で有名なコスモスイニシア(旧:リクルートコスモス)へ入社し、自ら3年間と決めてデベロッパーのノウハウを学びながら起業資金を貯めた。24歳になり、いよいよ起業をするという時にはノートに100個のアイデアを書き出した。

 

その中で自分の心にピンと来たのが、建築と不動産とIT業界の融合だった。

 

「個性的な不動産を紹介するサイトをやろう。」早速彼はパソコンを開いて検索をかけた。そこで不動産会社スピークが運営する「東京R不動産」と出逢う。月200万PVを叩き出す、マンモスサイトを福岡にも導入したい。本田氏は自分の人脈を辿り、何とか東京R不動産へと企画書を提出した。「まず、物件紹介記事を書いて提出してみて。」そう経営者に言われた彼は、本業の傍ら不動産会社に飛び込み、個性的な物件を探しまわった。必死でかき集めた物件情報の中から紹介できるものを選び、毎週コラムを書いては東京へ送り続けた。それが6カ月続いた後、無事「福岡R不動産」を開設するに至った。株式会社DMXの誕生だ。ちなみにR不動産の関係者以外でこのサイトを立ち上げたのは、本田氏が初めてで、他の政令都市よりも早く「福岡R不動産」はオープンした。

 

しかし、開設したからと言ってすぐに上手くいくはずがない。2年間はほとんど利益が出ず、自分の給料、いわば役員報酬がそのまま赤字計上だったそうだ。「お婆さんやお爺さんがやっている不動産屋に、株式会社DMXですって名乗るとすぐ電話を切られたりしましたね(笑)。」そう振り返る本田氏。しかし、段々とユニークな視点での物件紹介が受け、ファンも増え、3年目からは軌道に乗り始める。そして4年目には福岡県から受託した「筑後トライアルステイ」でテレビや新聞、雑誌からも取材依頼が多数来るようになった。現在では6人の社員と月30万PVのサイトを構築。(余談だがFUCAを見学しに来る人も「福岡R不動産のファンだから」という人も多かった。)周囲の協力もあって、本田氏が会社内にいなくても事業が回るようになってきたので、彼は昨年11月から3カ月間、

シリコンバレーに滞在した。

――シリコンバレー行ったきっかけは?

 

グローバルベンチャーがどうして日本にはないのだろう?って不思議に思ったんですよね。google、facebook、appleって全て海外発のベンチャー企業ですよね。
海外のサービスが日本で利用されることはあっても、日本で作ったサービスが世界で利用されないのはどうしてなんだろう?それが知りたくて、滞在前に2週間西海岸に旅行に行きました。うち4日間でシリコンバレーに行き、appleの唯一の日本人デザイナーやevernoteの日本人社員などにお会いして直に話を伺っていくうちに、なんて自分はローカルなことしか見てなかったたんだろうと衝撃を受けたんですよね。彼らは、目の前の利益云々より広義でみた中でこれが一番面白そうだからやろう、という風に行動していて、僕にはそういうグローバルな視野が足りないなと思ったんです。それで自分の視野を広げるためにも、グローバルベンチャーが点在するシリコンバレーに滞在しようと決めたんです。

 

シリコンバレーにグローバルベンチャーが集まる理由は、インキュベーター、つまり起業支援者がいっぱいいて、ベンチャー企業を育成するシステムが出来ているからなんです。それを『エコシステム』と呼ぶのですが、インキュベーターが起業家を支援するためにビジネスプランを改善したり、知り合いのエンジェルや投資家をつれてきて、次世代のビジネスを本気で育てていく。そのため、向こうでは創業者と社長が違ったりするのが当たり前だったりするんですよ。エコシステムが確立されているからこそ、質の高い起業家が集まってくるんです。僕は、エコシステムの研究のため、インキュベーション事業を展開している企業に籍を置かせていただいて、リサーチや事業計画に没頭しました。もちろん、自分の会社のこともあるので合間を縫ってSkypeを通じて定期的ミーティングをしてましたし、経理も滞在先で行ってましたよ。

シリコンバレーのGoogle本社キャンパスにて撮影。本田氏は福岡にも起業家を育成するインキュベーション施設を創設するため、インキュベーションを事業化している会社「サンブリッジ」にてリサーチ・事業計画を行っていた。
シリコンバレーのGoogle本社キャンパスにて撮影。本田氏は福岡にも起業家を育成するインキュベーション施設を創設するため、インキュベーションを事業化している会社「サンブリッジ」にてリサーチ・事業計画を行っていた。

――FUCAとはどう関わりあっていくのでしょうか。

 
FUCAは、アーティストをインキュベートする施設でもあります。天才がひとりいてもその人の作品が10億円にいきなりならない。優秀なギャラリストがいて展示会をしていって人の目に触れて初めて有名になる。僕らやFUCAに集まってくる人脈を集めて、シリコンバレーの大人たちがみんなでベンチャーを引っ張り上げる、という仕組みをアーティストにも適応したいですね。

 

――何故、本田さんはアートの分野でインキュベーション施設を作ろうと思ったのですか。


ポートランドに行ったのがきっかけですね。以前から東京R不動産のボスにポートランドを薦められていて、シリコンバレー滞在時にオフの時間を使って遊びに行ったときに、街に刺激を受けたんです。人口約60万人なんだけど街がコンパクトで食事がおいしい。街中にアートがあって、画材屋やギャラリーが点在している。あと、スポーツが盛んな街なんですよ。周辺にNIKEの本社やオレゴン大学とかもあって。QOL(Quality of Life)が高い街なんですよね。サステナブル、いわば持続可能な街づくりを実現しているんです。無理せず、地に足ついた豊かさを実感できる。美味しいものをおしゃれなところで食べてスポーツして…アートとか文化に触れて、週末は山川に出かけるという生活が出来る。最近、NY生活に疲れたクリエイティブな人たちが移住してきているんですが、ニューヨーカーがポートランドに移住したいというのは東京から福岡へ移住したいということと類似していると感じたんです。

 

まさにポートランドが福岡の未来なんだなと思ったんですよね。

と同時に、福岡に足りないのは文化だなと肌で感じました。


すたれた街にアーティストのアトリエやデザイン事務所ができると少しずつ人が集まってきて、その通りが面白くなる。そういう意味ではアートに力があるというのがR不動産の運営により実体験として分かっているので、アートを福岡の文化として根付かせ、街を変えていくのはいいなぁと思ってFUCAの開始に至りました。FUCAは定期的にアーティストは回転していっていいと思ってるんですよ。もちろん多少長くいても構わないんですが、これからやってみないと分からないこともあるので、まずは3カ月でトライアル期間としてやっていって方向転換が必要なら随時適応していく。こういうのは立ち上げることが大切だと思っているので、最初からどうこう決めないでいいと思うんですよね。いくら企画書を練っていっても何を協力していいか分からないし、熱がさめちゃう。まずはやってみることが大事です。

ポートランドのワイデン+ケネディ。街のクリエイティブを牽引する広告代理店。オフィスの壁一面にスタッフの顔写真が並ぶ。この街に本田氏は福岡の未来像を見出した。そして平尾のアートスペース「FUCA」から彼の提案する“FUKUOKA”が始まる。
ポートランドのワイデン+ケネディ。街のクリエイティブを牽引する広告代理店。オフィスの壁一面にスタッフの顔写真が並ぶ。この街に本田氏は福岡の未来像を見出した。そして平尾のアートスペース「FUCA」から彼の提案する“FUKUOKA”が始まる。

 

――起業家の枠に収まることだけでなく、起業家支援のシステム創設にも注目している本田さんですが、そもそもなぜ、起業することを選んだのですか?

 

僕は建築学科出身なんですが、そもそもこの学部を選んだ理由が、建築家はファイナルファンタジーみたいな未来的な都市を作れるんだ、それってかっこいい!とあまり深く考えずに選んだんですよ。で、無事に入学して、さあ授業って時に最初のデッサン課題がキャンパスの『階段』だったんですね。そこで僕の書いた絵を見た助手が一言「お前の絵、小学生レベルだな…」と言ったんです。そこでハッと気がつきましたね。建築家には芸術的センスもいるのかと(笑)。それでさっさと建築家は諦めて、残り4年間の学生生活で何をしようと考えた時に、当時盛んだったIT業界で起業するという目標に変えました。今思うとそれが転機でしたね。当初は若かったので、起業すること自体が目的だったのですが、今はWEB系のサービスで不動産業界を変えていくことが中長期的な目標ですね。WEBサービスは今までの生活を変える可能性を秘めていると思っているので、そこから不動産業界に新しい風を吹かしたいと思っています。

 

――運命の階段だったんですね(笑)。そうすると、中長期的な目標の中に「FUCA」や「R不動産」があるということなんですね。特にFUCAの立ち上げについては迅速かつ大胆な発想だと思っていましたが、本田氏の中では自分のビジョンに則って着実に進んでいるんですね。

 

ときには上手くいかないこともありますけどね。29歳になりましたが上場に向けてはまだまだこれからだと思ってますし。けど、いつまでに何をすると目標設定すれば振り返りもできますし、出来てる出来てないがはっきり分かるので次の行動が明確なんですよね。それは何にするにも良いと思いますよ。

 

――ありがとうございました。最後の質問ですが、福岡で好きな場所はありますか?また福岡をどう思ってますか?

 

天神。コンパクトさがいい。なんでも揃うじゃないですか、天神に行ったら。あとは糸島ですね。将来的には薬院と糸島で2拠点居住をしようと計画しています。

福岡はとても住みやすい街ですね。ただ、無い物ねだりでいうと人を集めると毎回同じ人が集まるという面はあるかな。東京は循環していくのでそこは違う点かな。もっと外から人を呼べたらいいなと思ってます。福岡で最近IT企業が進出しているのは良い流れですね。昔は東京進出を目指して福岡で起業するという傾向もあったと思いますが、僕はそんな考えは全くなくて、東京、ポートランド、上海などの数ある拠点のなかの一つで福岡を選らんでそこから情報発信しているという感覚でいます。

 IT・不動産・アート。一見繋がりのない世界を、スピード感を持ってつなげていく。それが出来ているのは、彼の瞬間的な判断力と継続力にある。想いをぶれることなくストレートに、コンスタントに伝えていくことで、その想いが核となり、吸引力となり、相手を引き寄せている。また彼自身がフラットな関係を好むため、相手も彼を一個人として認め、フラットに提案していく。自由な姿勢がお互いにとって良い方向で形が仕上がっていくのだ。この一年、都市部から福岡への転居は増加傾向にある。またアパレルブランドを中心とした外資系企業の参入、航空便でも福岡から海外への直行便が増えた。県外および外国から福岡を見たときに、どういう街であるのか。点と点でバラバラだったものをつなげていくことに、いよいよ真剣に取り組む時期に差し掛かっている。そんな中、地形を活かした街づくりを提唱する本田氏。彼の描く未来図は日を追うごとに彩度を増していく。

■Profile
本田 雄一

1983年2月24日生まれ 神奈川県横浜市出身、福岡県福岡市在住


早稲田大学建築学科卒業。在学中に起業を考え、起業家輩出で有名なコスモスイニシア(旧:リクルートコスモス)へ入社。会社としても新卒者を配属するのは17年ぶりという、異例の辞令を受け、土地勘のない福岡で3年間デベロッパーとしてのノウハウを学ぶ。その後、株式会社DMXを設立。個性派物件をコラム形式で紹介する「福岡R不動産」を運営する。

その後、福岡県からの受託事業「筑後トライアルステイ」を計画・実行。今年1月に滞在したシリコンバレー・ポートランドにインスパイヤされ、アートとインキュベーションを融合した施設「FUCA」を2012年4月15日オープン。

 

FUCA:http://fuca.asia/
福岡R不動産:http://www.realfukuokaestate.jp/
DMX:http://www.dmx-j.com/
twitter:http://twitter.com/#!/uhonda
facebook:http://facebook.com/hondayuichi

 

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