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今週の気になった一冊を紹介していきます。

もしも、私があなただったら/白石一文(講談社)

表紙がどの場所で撮影されているか、分かる人もいるだろうか。

正解は、福岡の憩いのスポット「大濠公園のベンチ」。

白石一文さんは、福岡出身の直木賞作家である。

 

気がついたら、日が暮れるのがすっかり早くなって、

夜の時間が長くなった。

衣服の隙間から風が入り込んで、

思わずきゅっと襟をつかんで歩く。

 

外にいることを一瞬迷わせる季節だが、ベンチに座って温かい珈琲を飲んだときの、身体がみるみるほぐれていく開放感や、珈琲の湯気のゆらめきに時間をしっとり感じることができるのはこの季節の醍醐味でもある。

 

大人になるとの寒い季節の楽しみもより一層増える。

恋愛小説もまたしかり。

 

 

 

この本は、福岡出身の49歳の男性が主人公。

東京の大手企業で勤務していたサラリーマンが、子会社への出向を機に脱サラ。

田舎の福岡へ戻り、大名でバーを開店する。

しかし経営は上手くいかず、閑古鳥が鳴く毎日。挙句の果て腰も悪くし、

身体も経営もゆるやかに右肩下がりになっていく毎日を過ごしていた。

 

そこに一本の電話が鳴る。

 

電話の相手は、会社の経営戦略課で一緒に汗を流し奮起し、

会社を大きくするために東奔西走した同期の妻だった。

 

「あの、私、いま福岡空港から掛けているんです」

 

彼女は数年前、主人公に自分の気持ちを打ち明けていた。

しかし主人公は相手にしなかった。そこから数年が経ち、とある事件をきっかけに再会を果たす。

お互いが人生の紆余曲折を体感した後に始まる恋愛とは。

 

49歳の男性と43歳の女性の物語は、秋に流れる時間のようにとてもゆっくり進んでいく。

恋を忘れてしまった主人公は自分の生活の域を越えることにためらい、不安と疑いと駆け引きに溢れている。

しかし、彼女の言葉や自由奔放な行動により、段々と固く閉ざされていた気持ちが解きほぐされていく。

 

恋とは。恋するということは。

 

ピュアな感情は、恋を忘れた時間の分、輝きを放っていた。

そしてクライマックスへ。

 

文章は最初から最後までとても読みやすく、会話の流れも自然。

また福岡の地名も至るところで出てくるので、本当にこんな2人がいるような錯覚を起こしてしまうほどリアルである。

静かに優しく身体の中にしみ込んでいく話なので、珈琲タイムに是非どうぞ。

 

 

余談だが、この物語は2006年に発行されたが、「携帯」や「ネット」などの言葉が一切出てこない。

少し近代化されている恋愛に疲れたときにも、この本を読むといいかもしれない。

FUKUOKA ROAD PICTURES/川上 信也(花乱社) 

記念すべき一冊目はこちらをご紹介。

 

福岡に来た時にまず感じたのは思いのほか空が水色だったことだ。

 

考えると、福岡といえば中洲で遊んで、屋台で芋焼酎たらふく飲んで散々騒いだあとにラーメン屋に寄って麺固めで食べて替え玉して、家族へは明太子をお土産に買って帰る…と、誰もが想像するイメージそのままで、夜のサラリーマンのイメージが強かった。

 

それゆえになんとなく昼のイメージが浮かばず、空がどんな色かなんて想像すらしなかった。

しかしいざ来てみると、パステルに近い水色の空。

そしてその空を何度も飛行機が飛び交う。

 

クリアな空に飛行機雲の放物線がシゃっと入る風景を街中で見ることはとても珍しい光景で、観光客が思わずカメラのシャッターを切っているのも納得だ。

 

 

この本では、福岡の四季折々の表情をいたるところで撮影している。

たとえば、これから時季になる能古島のコスモス畑、たわわに実る枇杷が密集した朝倉市の杷木、

セピア色に染まる福智山のススキといった具合。

福岡は九州の最大都市だが、車を走らせると一時間くらいで山や海へたどりつき、

田舎ならではの風景に出逢える。

 

カメラマンの川上信也さんが撮った原写真はまるで福岡の人たちがふらっとひとり旅に出たような、日帰りでも帰れる場所で、心を休めてくれる景色がぎゅっと詰まっている。写真を見ていると時にダイナミックな雄大な自然もあれば、やわらかい色合いで作られた洋館や糸島のカフェでくつろぐ猫の写真など幅広く、そしてどことなく風景写真なのだけれど人の温度を感じる。自然ならではの緑、青、赤、黄色はもちろん、藍、橙、黄土など優しい色合いをした写真も満載だ。

また、それぞれの写真にはスポット名の表記とともに1、2行で簡単な文章が載せられているのだが、その言葉がまた写真がしゃべりかけているような、温度のある文章だからこれまたゆっくりと心と体をときほぐされる。

 

人は疲れたとき、導かれるように旅に出ることがある。

きっと私たちの身体どこかで、それこそDNA単位で、自然に包まれていた記憶が残っているからかもしれない。土の匂いや風の感触、虫の声を感じながら、目の前に在る自然との対話によって世界の大きさを感じることにより、色んな気持ちから解き放たれるからかもしれない。

福岡にもそんな自然の景色が沢山存在するのだ。そしてこの「FUKUOKA ROAD PICTURES」は、都会といわれる福岡の反対の面を詰め込んだ本である。

 

私のように、夜のイメージしかなかった人や、もしくは別の地域にいる福岡出身者、もしくは福岡で初めて生活をする人、もちろん地元の人でもいいのだが、福岡ならではの自然を感じてほしい人には是非見ていただきたい一冊である。

text & photo Taiyo Furukawa

This week special photo.